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「白猫、……!」
サザンカが俺に合図を送る。いよいよ出番だ。もちろん、取材陣には何のことかわからない。他の味方にも、だ。意味を知っているのは、計画を遂行する奴らだけで良い。あんまり大勢に情報が行きわたり過ぎると、全体が演技臭くなる。
俺は刀にべったり付いた血(ほとんどは偽物の血糊だ。北兵も南兵も、軍服の下に血糊の詰まった袋を装着している)を振って払うと、目当ての南兵を探して素早く辺りを見回した。俺と相手は初対面だけど、打ち合わせは済んでるから大丈夫……な、はず。その辺は兵長がきっちりやってくれている。
南兵の一人が、見当外れな方向に自動小銃を向けて撃った。俺がそっちに目を向けると、向こうも気付いたようで頷き返して来る。
あいつだ。
北兵にはいない、皺だらけの老人。あれじゃ無理も無い、そろそろ兵士としてはお払い箱だ。向こうもそれを知って、自分から志願したんだろう。足手纏いの烙印を押されてその辺に捨てられるよりは、少しでも役に立って戦死した方がマシだ。
爺さんは怖がる素振りすら見せず、無言で俺の方へ走って来る。速い。軍曹の爺が生きてたら気に入りそうな兵士だ。俺は少し怯んでしまって刀を取り落としそうになったが、間一髪、爺さん兵士の攻撃をよけることができた。慌てて体制を立て直してから、爺さんの刃毀れした刀を受け止める。金属の交差する隙間から、お互いの顔が一瞬だけ覗く。
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