白猫とサイコロ

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「戦って死んだら幸せ者だって、あんたの爺さんなら言ったんじゃねえのか?」 「幸せだと思わなければやって行けなかったんだろう。君らも私も、表向きは戦死以外に休息を許されていない」  俺達は捕虜だ。人間の争いのために拉致されて、地球へ連れて来られた兵士。死ぬまで戦い続けるだけの生活。俺は故郷のことを何一つ知らない。地球で生まれて、その瞬間から兵士になることを決められていたからだ。  ほんの五十年前だったら、きっと泣いたり怒ったりする奴も大勢いただろうと思う。でも、今はそんな捕虜は一人もいない。別に人間に服従することに慣れたわけじゃない、ただ今は兵士でいた方が善良な一般市民の皆さま方よりも食いっぱぐれが無いってだけだ。 「保存食はまだ持ちそうか?」 「いや、サイコロが良く喰うもんだから。けど、やばくなったらまた人間の闇市を取り締まりゃあ良いだろ」  戦争には勝たなきゃいけない(今でもまだ本気でこう思ってる奴がいるのか? だとしたら相当お目出度い)。そのためには兵隊が戦えなきゃいけない。兵隊は喰わなきゃ戦えない。 土地が減ったから、当然作れる食べ物も相当減った。その少ない食べ物は、戦争のため、お国のために俺達兵士様に優先的に配られる。人間が俺達を兵隊にした所為で、結局最期は人間が喰うに困ってるんだから、歴史ってのはつくづく面白い。最も、この面白さをいくら説明したところで、サイコロの馬鹿には1パーセントも伝わらないんだが。 「そろそろ時間だ。指揮を頼むぜ、酔っ払い軍曹」  俺が声を掛けると、机に顔面をくっつけて寝る体制に入っていた軍曹は面倒臭そうに右手を振った。  まあ、いいか。いてもいなくても、大した違いは無い。  俺は人間が好きなわけじゃない。けど、この軍曹のことは割と結構好きだったりする。  何でだかわかるか?  こいつも結構ハンサムなんだ。  貧相なアレのことはこの際、不問ってことにしとく。
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