白猫とサイコロ

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 まず、俺のすぐ隣でがなり立てているのがサザンカ兵長。日本刀を持たせたら、多分俺達の中では一番強い。長身で男前、俺を含める大半の兵士は、こいつと今の軍曹の立場を入れ替えた方が良いんじゃないかって本気で考えている。軍曹が本当に軍の指揮を取っていたのは、最初の二、三回だけだ。あいつの親父の代から大分やる気は無かったらしいが、息子は尚更酷い。今では指揮を取るのも、作戦を立てるのもサザンカの役目で、軍曹はただ酔っ払って「ああ、良いんじゃないか。うん」と言うだけ。  勘違いしないでほしいが、俺は兵長とは全く関係を持っていない。別に兵長が他の奴ら(例えばサイコロとか、軍曹)に比べて身持ちが固いわけでは決して無くて、その証拠に軍の女とは結構楽しんでるわけなんだが、ただ向こうも俺も異性とは寝る趣味が無いってだけだ。生えているもんは無いけど、この女兵長は軍曹よりもずっと頼りになる。  次に、大砲(壊れてる)の前でやたらと胸を張って、感極まった感じで敬礼している馬鹿っぽいおっさん。あの出っ腹は、アドルフ上等兵。やたら威張り腐ってて、もう戦争なんて意味が無いって気付いてるはずなのに、戦争そのものに酔っちまってる仮性馬鹿。禿げかけた黒い頭に短い手足で、その癖アドルフなんて名乗ってるのは何か違和感があるんだが、好みのタイプじゃないからこれ以上言うことは無い。  その隣で大砲を整備する振りをしながら、実はぼーっとしている長髪の男。頭の中では蝶が飛んでそうな目付きで、多分ここに来る前に悪いおクスリをキメて来ている(俺も軍曹も呑んでるし、非難できないけど)。あいつは、緑一等兵。アドルフ以下は皆ほとんど一等兵だ。緑は、とにかくやる気が無い。放って置くと戦車(二台しか残って無いが、両方とも壊れたんで今は乗って来ていない)に潜り込んでずっと寝てたりするんだから油断ならない。あんな狭いところで、熟睡できる方がちょっと異常だ。  見た目はかなり細身だけれど、別に弱いってわけじゃない。多分。  まあまあハンサムだし、緑は男だろうが女だろうが来るもの拒まずだから、俺はこいつのことも結構好きだ。けど、俺にまで大麻を吸わせようとするのには参った。
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