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「律……」
私はどうしたらいいんだろう。
この友人を泣かせたいわけではなかったのに。
私はただ、恋人を作っただけで。
誰かを傷つける可能性に考えが及ばなかった。でもそんなこと考えていたら一生誰とも恋なんてできないじゃないか。
「夏樹。加瀬と別れて私と付き合ってよ」
強い口調だった。冗談とは思えないような。なのに冗談みたいなセリフだった。私は返事に窮して口をつぐむ。
困る私を見て、律は泣きながらくすりと笑った。
「なんか、夏樹のそういう顔初めて見た。夏樹も焦ることあるんだね?」
「そりゃ、あるでしょ」
「そっかー。ねえ、夏樹。加瀬のことちゃんと紹介してよ」
「紹介?」
私はゆっくりと瞬きをする。
「そう、紹介。私ももっちゃんも、加瀬のこと全然知らないから余計に腹立つんだよね!ちゃんと、紹介して。加瀬のどこが好きか話して」
真剣な目だった。私はゆっくりとうなづいた。
なんとなく気恥ずかしくてきちんと紹介する気にはなれなかったのだけど。律が望むならそうしたほうがいいんだろう。
「じゃ、加瀬にも予定聞いとくね」
「うん、そうして……あ」
律が言って、私の胸元のリボンをつかんだ。そのまま引き寄せられて驚いてる間に唇が重ねられる。柔らかい、と思った。すぐに顔を離しリボンも離した律は、いたずらっぽく、でも痛そうに笑う。
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