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9月に入り、夏休みが終わったことを憂えながら俺は部活をしている生徒たちを見ていた。俺、藤堂達也は高校2年生の帰宅部である。グラウンドに面した校舎の三階から、窓の縁で体をだらけさせながら、スポーツを堪能している生徒たちをどこか尊敬しながら見ていた。
「二塁まで回れ!」
気持ちの良い金属音の後に誰かがそう怒鳴っているのが聞こえそちらに目をやる。俺はさすが野球部は元気だと思いつつ次のバッターが打つのを見ていた。今度は鈍い金属音がし、ボールはかなり上まで飛び、山なりになりながら吸い込まれるように校舎に向かってきていた。
俺はガバッと起き上がり、ボールの予測軌道を素早く目で追った。落下地点には女子生徒がこちらに背を向けて立っていた。
「危ない!」
そう叫びながらマズイと焦りつつ、俺は女子生徒の元へと慌てて駆け出した。間に合えと必死に思いながら、驚きのために硬直している女子生徒を胸元へ強引に引き寄せる。
その一瞬後、窓ガラスを割りながらボールが飛び込んできた。俺は冷や汗を流しながら未然に防げたことに安堵した。
「大丈夫?ガラスかかってない?」
質問しながら助けた相手の顔を見た俺は絶句した。危険を察知し回避できたことにより、満足感と少しのヒーロー気分を味わっていた俺はすべてが自分の中で崩壊する音が聞こえた。
「嘘…だろ…」
助けた相手は女子生徒の制服を着飾ったマネキンだった。俺はその場で脱力し膝をついた。
「嘘でしょ」
別の声がし、ギクッとしておそるおそる声のする方を見た。マネキンの置いてあった近くの教室の入口から、なぜかメイド服を持ちつつこちらを見ている女子生徒がいた。その顔は半分笑い半分引いたようにひきつったような表情をしていた。
「ハ…ハハハ」
マネキンを置いたであろう元凶が目の前に居たが、乾いた笑い声をあげるしか俺にはできなかった。
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