風鈴の音

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「変わらないですね」  そう言って、彼女、川中由美子は笑った。  君も、変わらないな。そんなことを一瞬口にしようかと思った。だが、やめた。言葉を飲み込む代わりに、煙草に火をつけた。 「清水さんは、気取らずにそういう感じでした。学校じゃ不良扱いでしたけど、そうじゃなくて。束縛されたくないなんて言い方じゃ陳腐ですけど、社会への反発とか、そういうことじゃなくて、心からそういう風に思って、清水さんは生きてました。お姉ちゃんもそうです」 「過去を懐かしむためにここにきたわけじゃない」  そう言って、紫煙を吸い込んだ。なぜか、由美子を突き放すような言い方をしてしまう。イラついているわけじゃない。悲しみで感情がささくれているわけでもない。何故だか自分でもよくわからなかった。  由美子は黙ってしまった。怒らせてしまったか。当然だ。 「清水さんが来てくれてよかった」  由美子はそう言って、立ち上がった。表情も、声も穏やかだった。  何かを言おうと思った。だが、煙草の灰が落ちそうになり、それを手で受け止めている間に、由美子は去った。煙草はだいぶ短くなっていた。僕は煙草を瓶コーラの空き瓶に突っ込み、二本目の煙草に火をつけた。   ※    川中沙耶と出会ったのは、高校生のころだった。  その頃の僕は、ただただ生意気なガキでしかなく、この何もない町から抜け出したいということしか考えていなかった。  何をしたいとか、こうなりたいなんてことはなにひとつなく、ただ、町を抜け出したいとだけ考えていた。そんな僕が、反発することで存在証明をする不良やら、青春にすべてをささげんとする連中のことを見下していたのだからお笑いだ。  僕も、彼らも、ただただガキだった。  青春も、反発も、説明しがたい感情も、その時期特有の病のようなものだった。  沙耶が僕に話しかけてきたのは、そんなどうしようもない僕が二年生の時のことだ。
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