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「お姉ちゃんは変わってるから」
由美子が遠慮がちに言う。演劇部で衣装係をつとめる由美子は、引っ込み思案で、いつも沙耶のうしろにいる。こうして話すようになったのも、三度目に家を訪ねた時だった。今では、普通に話せるようになった。
「変わってるかな? みんな、同じように考えてると思うんだけどな」
「考えていたとしても、実行できる人なんていないよ。お姉ちゃんは特別」
沙耶は渋い顔をしてコーラを飲む。
そう、沙耶は特別だ。特別な才能がある。だからこそ、破天荒でも許される。
本人はそれに無自覚だ。才能あるものというのは、そういうものなのかもしれない。
「私は由美子のほうが素敵なものいっぱいもってると思うけどな。わが妹ながら、超可愛いし。舞台に出てくれって何度も言ってるんだけどね。ね、清水君。もったいないと思わない? 絶対舞台映えするのに」
沙耶がそう言うと、由美子は下を向いてしまう。だが、確かに沙耶の言う通り、由美子は魅力的だった。恥ずかしがり屋で、もじもじとしているが、それが鼻につくことはなく、むしろ魅力的にすら思える。天性の少女性とでもいえばいいのだろうか。
「確かに、見てみたいな、由美子の芝居」
「先輩までそんなこと……絶対無理です」
顔を赤くする由美子を見て、沙耶が笑う。
僕は、この時間が好きだった。居心地が良くて、どこか甘ったるい空気。
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