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僕は高校を卒業した後、地元の新聞社に就職した。
地方紙の小さな会社だが、取材に出かけたり、記事を書くのはとても楽しかった。
沙耶との関係も続いており、僕は結婚も視野にいれていた。
この頃には、沙耶はいくつかの新人賞や脚本賞を受賞しており、すでに脚本家として有名人になっていた。
ドラマや映画の脚本も担当し、沙耶の名前がスタッフの中にあると、名作であることが約束されるとまで言われるようになっていた。
僕はそれが誇らしくて、それが自分の仕事のモチベーションにつながってもいた。
浮かれていたのかもしれない。
内心では焦っていたのかもしれない。
自分と沙耶の距離が、離れていくことを恐れていたのかもしれない。
まあ、とにかく、そんな感情が渦巻いて、僕は一緒に食事をしている時に、沙耶にプロポーズをした。
「うーん。そういうの苦手だな」
沙耶はいつも通りの笑顔で言った。
「私たち、そういう関係にならなくても、楽しくやってきたじゃん。結婚ってそんなに大切かな? 子供を残すみたいなこと? 私は別にいいかな」
沙耶の声が遠くから聞こえる。
「でも、どうしてもっていうんなら、今抱えてるお仕事が片付いたら、してもいいよ?」
僕は席を立ち、沙耶に背を向けた。
背後から沙耶の声が聞こえる。だが、聞き取れなかった。いや、僕が聞こうとしなかっただけなのかもしれない。
その後、僕は仕事を辞め、東京に出た。
それ以来、沙耶とは一度もあっていない。
今、あの時を振り返ると、ああいう女だから惚れたのではないかと自分を諫めたくなる。結局、僕は自分の気持ちを押し付けて、受け入れられないから拒絶するという典型的な小僧でしかなかった。
そうして、都会での暮らしにも慣れ、沙耶のことも過去のことになり始めたころ、親から連絡が来た。
沙耶が、亡くなったという連絡だった。
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