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帰宅後すぐに、机へ向かった。どんな宿題だって、こんなにすぐに手を付けることはない。紙と赤鉛筆を引きずり出した。難しいことは、赤鉛筆に限る。特に理由はない。なんとなく、だ。
江畠さんの噂は、主に三つ。
生徒会を脅して、議事を都合よく操作している。
教員と手を結び、妥協案を用意している。
不良と結託して、学校を乗っ取るつもりだ。
赤い文字を並べてみたが、美利には何とも言えなかった。客観的に、否定する材料はない。ただ、美利の知る江畠さんとは、違う気がした。美利の知る江畠さんは…、わからない。こんなに近くにいながら、具体的な姿はほとんど知らなかった。
どんな宿題よりも早く、すっかり行き詰まってしまった。
すがすがしいはずの朝なのだから、せめてもう少し涼しければいいのに。
結局、何もわからないまま朝を迎えてしまった。
朝の待ち伏せ。
それが一晩で絞り出した答えである。やはり本人に聞くしかない。納得できる答えが、美利には必要だった。
がらんとした生徒玄関で、美利は左右に首を振った。一体どこで捕まえればよいのか。具体的には、ノープランだった。
とりあえず荷物を置こう。行き先を教室へと決めた。
「おはようございます。」
誰もいないと思っていただけに、背後からの声に全く反応できなかった。慌てて振り返ると、そこに探すべき人が立っていた。
「おはようございます。早いですね、江畠さん。」
「怒っているだろうと思ってな。こんなに早く来るとは思っていなかったのだが。」
「お話があります。」
「部室、行こうか。」
「お願いします。」
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