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江畠さんの決意
暗くはなかったが、江畠さんは部室の電気をつけた。ぐるりと部屋を見渡すと、江畠さんは手前の椅子に座るよう促し、自分も奥の椅子に座った。そこは、江畠さんの指定席だ。
さっきから妙に心拍数が上がっている。こんなこと、数年ぶりかもしれない。もうとっくに、強くなっているつもりだったのに。
「悪いな。」
先に口を開いたのは、江畠さんだった。
「悪かったと思っているよ。特に、美利には。」
「どういうことですか。」
「美利は、ここにいるべき人物だと思っていた。居場所を奪ってしまってすまない。ほかにも、うちが必要な人はいくらかいただろう。悪いことをしてしまった。」
「そう思うなら、どうして。」
「疑問に感じたことはないか。うちが、白狐の会が、力を持ちすぎているんじゃないかって。」
「力、ですか。」
「通るはずのない提案が、何の違和感もなく通っている。規則に則って、代表者会議で承認されて。少数派の意見を、小さな声を公に通すのが、うちの使命だからだ。そのために、これまで多くの人が尽力してきた。その結果、理解してくれる人が増えた。それはいい。でもいつの間にか、うちが出したから賛成するという連中が増えた。中身なんて気にもしない。ただ賛成して、多数派になるのを喜ぶ連中が増えた。確かに、今まで私たちは力を得ようと尽くしてきた。でもそれは、多数派になりたいからじゃない。」
「江畠さん…。」
自分の無力さを痛感していた。美利も、そしておそらく江畠さんも。美利は、近くにいながら江畠さんの苦しみを感じ取れなかった自分を恨んだ。
「私のしてきたことが、こういう結果を招いたのなら、責任は私にある。だから私が辞めるのは当然だ。そして、この白狐の会を一緒に葬る。うちがある以上、依存者は救われない。自分で考えることを取り戻そうとしないからだ。」
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