私の兄界線

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 まず兄は、祖父の作務衣を身につけた。  弓道用の袴がないので、とりあえず和物を見繕ったという魂胆だろう。  そして、近くの古本屋まで走ると、聞いたこともない文学書を小脇に抱えて戻ってきた。こっそりタイトルから検索してみると、いかにも高尚そうなロシア文学だった。  値札がちらりと見え、店頭のワゴンセールから持ってきたことがわかる。  そして兄は何を思ったか、日にすら焼けていない右腕に包帯を巻き始めた。  私以外にはきっと理解しえないだろうが、どうやら兄は、怪我を理由に塞ぎ込み、文学に救いを求めているという設定を定めたのだろう。  ただ、包帯の巻き方が「し、静まれ……俺の腕よ……!」とでも言い出しそうな有様だったので、巻き直してあげることにする。
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