私の兄界線

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 やがて、学友たちとの約束の時刻となる。  兄はソファーがあるのにも関わらず、おもむろにフローリングの上であぐらをかき、買ってきたばかりのロシア文学を広げる。  なるほど日に焼けた古本と作務衣という組み合わせが、いかにも熟読三四しているように映る。  そして兄は素知らぬ顔で私の学友たちを待ち受け、どこぞの探偵のように頭をボリボリと掻きながら「妹が世話になっているようだね」とだけ言い残し、自室へ退散していった。  私の想定とは異なってしまったけれど、兄は懊悩する文学者として、ぬるま湯のような人生を送るリア充どもに衝撃を与えたようだった。  私は急遽、「度重なる戦禍と不可分なアフガニスタン文学に触れた兄は、自身の怪我を契機に文学に傾倒し始めた」と新しい設定を加えた。
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