息子たちのはてしない物語

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 モンデンキント――かつての幼ごころの君である――は、はてしない物語が永遠に続くとてっきり思いこんでいた。ファンタ―ジェンが「虚無」に飲み込まれることはもうないと、信じていた。  実際の話はこうだ――そもそもはてしない物語などこの世に存在せず、バスチアン・バルタザール・ブックスが妄想した世界に過ぎない。すべて物語など妄想に過ぎないと言ったら、それまでだが。  そして奇妙なことに、その名前が示す通り、BBBもまた一冊の本に過ぎなかった――一人の歯科技工士の書いた一冊の書物に。歯科技工士には子供がいなかった(妻もいたことがなかった)。だから彼は現実に息子を想像し、彼の活躍する物語を書いた。残念なことに、彼にはこの長大な、膨大な物語を描ききる才能も時間もなかった。だから彼は次のような発明をした――物語の端々に、まるでほかの物語が隠されているかのように記述したのである。しかしその物語はすべて息子に対して捧げられたものだった――存在しないはずの息子に。歯科技工士が死んだら、だれもこの物語を語ることのできるものはいなくなるだろう――まるで「虚無」がファンタージェンを覆い隠すかのように。だが事実としては全くの反対である――「虚無」がファンタージェンを終わらせるのではなく、ファンタ―ジェンが「虚無」から想像されたものに過ぎないから、その作者の死によって(あるいは、彼の場合、在り得ないことだが、忘却によって)はてしない物語が終焉を迎えるのである。
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