第1章

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 だが、未だそんな浮かない顔をした少女、蘭紫餡にて便利屋として生活している「烙鳴」に仕事を依頼した当人は来ないようだった。とすればその間、手短にことの経緯を思い返してみるのも、また一興というものだろう。  ひとまず、烙鳴がこのような場所に一人でぽつんと、森林浴すらできぬままに硬い切り株に腰掛けることになるには、夜をまたいで一日ばかり、時間を遡ることになる。今回はその一部始終、烙鳴本人の回想から始まる……―― 二  そこにあったのは一通の便箋。  今朝は、いつもみたいに目覚めてからちゃちゃっと着替えて、部屋から事務所へ階段を下りる。この間変えたばかりの、良いお値段のする木材がトントンと音を立てる。やっぱりこういうところはちょこちょこ直していかないと、この家もそんなに新しくないし、なんて思いながら、私はまだ朝の冷たい空気にイマイチ動かない頭を、洗面所で叩き起こしにかかった。  さっぱりするのはいいけど、暑い季節なんかは早朝でも水がぬるくてうんざりする。効き目が悪いと結局お風呂に入っちゃったりして、水道代がバカにならない。  それはともかくとして、目を覚まし終わってさっぱりしたら、外の入り口のところの「炎勺相談所」の看板を表にし行くのも忘れてはいけない仕事だ。  扉を開けると、白く輝く朝日が空を満たしていた。まだどこか寝ぼけていたのかも知れないけれど、その景色を目の当たりにしたとたん、朝の空気がとても美味しく感じて、うんと伸びをして。そのまま速達郵便物の確認をすれば、まあどうせ空っぽでしょうけど、なんて閉じるのが普通なんだけど、今日ばかりはどうも様子が違うのだった。 「……あら、珍しいこともあるのね」  閉じかけたふたを上げて、中にちょこんと入っていた便箋を取る。なんか妙に重たい、高級そうな材質が手になじまない。こんなのどこで買ってくるんだろう。私はどうにも出鼻をくじかれたような、すっきりした外の空気とは全然違うもやもやまで便箋と一緒に抱えながら事務所に戻った。  まだ二階はしんと静まりかえっていて、火紋も、最近妙に仲良くなって一緒に寝ているチビちゃんも起きてこない。 「男の子達は気楽で良いわねえ……」
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