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優先道路を走っていた車のブレーキランプが見えたが、間に合わない。
激しい衝突音が響いた直後、二台の車は中央分離帯のない道路全体を塞ぐように停車し、こちらの車線を走っていた後続車はむろん、対向車線の車両も次々と事故の加わることになった。
相次ぐ衝突音と悲鳴。さっきまで何の変哲もなかった国道が一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図に変わる。
幸いにも俺は、少し前にブレーキを踏んでいたため、事故に巻き込まれることはなかったが、目前に広がる恐ろしい光景に、
110番も119番もできないまま車内で茫然と息を飲んでいた。
事故現場が真っ赤に染まる。その色は、いつも俺が見ている逃げ水と同じ色の赤だ。
もし逃げ水が赤く見えるようにならなかったら、あの状況で速度を落とすことはなかった。そうしたらきっと俺もあの事故の犠牲者の一人となっていたことだろう。
どうして俺にだけ逃げ水が赤く見えるようになったのか、今もって答えは判らない。でも、助かったのは事実だから、何かが助けてくれたのだろうと、感謝は常に胸に抱いている。
…今はもう、事故の名残も留めていないいつもの道路。逃げ水は、もう赤くは見えない。
逃げ水の道路…完
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