逃げ水の道路

　逃げ水って知ってるか？
　開けた平地の遥か彼方に水溜りのようなものが見える。でも近づくとそこには何もなくて、また遠くに同じような水溜りらしきものが見えるっていう現象。
　実際は何もなくて、蜃気楼が見えてるだけなんだけど、俺の家の近くにも、この、逃げ水が見える道路がある。
　綺麗にアスファルトで舗装された真っ直な道。晴れた日に運転すると、何度となくこの逃げ水を見ることがあった。
　それが真っ赤に見えるようになったのは、もうどのくらい前だろう。
　最初は何かの光線の加減だと思った。その後は疲れのせいだと信じた。それでもこの度ろうを走っていると、たびたび赤い水溜りが見える。
　逃げ水か見える人はたくさんいたけど、赤く見えるのは俺だけで、日増しに気味の悪さが募っていった。
　今日も遠くに赤い水溜りが見える。夕日を映したような温かな赤ではなく、もっと濃厚でまがまがしさを感じる赤色だ。
　それがたまらなく不気味で、俺は逃げ水が見えなくならないかと、制限速度よりかなり遅い速度で車を走らせた。
　ブレーキを踏み、ぐっと運転速度が落ちた、その時だった。
　道路の遠くに見えた脇道から、一旦停止もせずに一台の車が飛び出してきたのだ。