4 永久契約

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事態は変化している。完璧じゃないかもしれない。俺に強い願いがあるように,俺が関わる一人一人にだって「こうあって欲しい」という想いがあるんだ。 だから,全てが俺の願い通りにならないのはしょうがない。  何かアクションを起こして,それを続けて,双方の願いをすり合わせて,前よりマシな状態になれば,それでいい。  俺と圭の生活も変化している。圭は高齢者のユーザーフォローについて本格的に勉強して,試験的に訪問を始めている。同時に,パートナーシップを持つユーザーへのサービスのマニュアル化にも関わっている。圭の主張は受け入れられ,内縁関係にある人たちにも同等のサービスを提供できるようだ。中央にある親企業が,地方店舗の一店員の声を聞いてくれるなんて本当に驚くけど,それまでの圭の仕事ぶりを思うと,努力が実を結んでいるわけで,俺も自分の事のように嬉しい。たまに東京に出張しなければならなくて,ちょっとそれが淋しいだけだ。  引っ越してから,高杉が紹介してくれたバーにたまに出かけるようになった。 最初はおっかなびっくりだったけど,俺が知っているバーとそれほどは違わず, すぐに緊張は解れた。注意深く観察して会話を聞けば,店のスタッフも客もみな同性愛者だとわかる。周りがみなゲイだから俺も飲みながら圭とくつろげるし, 高杉を介して少しずつ知り合いができたのが,正直楽しい。家飲みとは違うよそ行きの楽しさだ。  あと,慎太郎が付き合ってた未来と結婚した。あれだ,できちゃった婚というやつで,俺は祝儀をちょっぴりはずんだ。おむつ代ってやつかな。しかし,慎太郎が親になるなんて…考えられねぇ。  輝は…輝に2人目の子が生まれた。上の子が生まれて2年近く経っていて,今度は男の子だった。  1人目が生まれてから,俺と輝はサッカーで同じ場所にいても全く接触が無かった。輝が俺を避けまくっていた。互いにサッカーや飲み会に出る回数が激減して,会う回数が少なくなってたから, 俺は輝のことを気にしないようにしていた。  今回,俺は性懲りもなく輝がいる時を狙って圭と病院に行った。何かを変えられるんじゃないかと期待してた。 「ようっ,おめでとうっ」  病室に入るなり,輝と由美さんに笑顔で言った。ベッドで新生児を抱く由美さん,上の女の子を抱っこして,ベッドの傍らの椅子に座る輝。
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