4 永久契約

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クリスマスと正月が駆け抜け,俺は斉藤製材所で新しく入った若者二人に仕事を教え込む仕事を引き受けていた。彼らが一通り仕事を覚えたら,俺は山中に戻ることになっていた。  そんな3月,圭の誕生日の夕方,俺たちはアパートに圭の家族を呼んだ。仁の彼女も一緒で4人だ。圭の親父さんはこのアパートに来たことがなかったし,俺と共同生活しているとは聞いていても実際どんなふうに生活しているのか想像できないだろう,そう思って招待したんだ。  俺たち二人がパートナーだってことは仁にしか伝えてない。今日もそのことをご両親に伝えるつもりはない。ただ俺たちが地に足の着いた,まともな暮らしをしているとわかって欲しかったんだ。  近所の寿司屋に注文した寿司と刺身の盛り合わせに,この時期に採れる山菜のあざみとあおさのりの吸い物という地味なラインアップにソフトドリンク。圭の親父さんは医者からアルコールを止められている。  食事会は静かに進み,時折,この魚は何だ,とか,この辺はどんな人が住んでいるかとか,控えめな質問がぽつりぽつり発せられるだけだ。圭の家族は静かだからな。  俺たちは男同士の同居人よろしく,いちゃつかないように気を付けて振る舞っていた。  突然ドアチャイムが鳴った。ドアホンにはお袋が立っていた。何で? 一人? 嫌~な予感がしたんだけど,玄関ドアを開けると…何てこった! 俺の家族がなだれ込んできた! 姉夫婦に子供ら4人,親父までっ。  あっけにとられた俺を尻目に,あいつらどんどん上がり込んで,リビングで圭の家族に挨拶を始めた。 「まぁ,圭君のご家族ですね! うちの勇翔がお世話になっておりますっ。山中,と申します。製材所を営んでおります。あ,お父さん,こっちこっち…ご挨拶して…」  お袋が仕切り始めた。姉ちゃんはリビングに臨時テーブルのあのちゃぶ台を引っ張り出して,そこにピザや手毬寿司やチーズ盛り合わせやらを並べ始めた。  俺が姉ちゃんに向けた顔は泣きそうになってたと思う。 「まぁ,大丈夫だって。あんたらの思惑は十分に伝えておいたから,あ,ほら,乾杯だよ」  八柳家4人とうちの8人。はらはらして見てたけど,確かに誰も俺たちがゲイだとほのめかすようなことは言わない。何かみんなで料理をつつき,お互いの自己紹介的な話に終始している。俺の親父は今は圭の親父さんと話し込んでいるみたいだ。
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