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圭の家族と食べていた時とはうってかわって,親戚同士の活発な寄り合いみたいな様子になった。圭の両親もこの状態を楽しいと受け入れている様子だ。
「今日は非常に楽しく過ごさせて頂きました。ありがとうございました。これからも圭をどうかよろしくお願いします」
物静かな,脳卒中のために身体の半身に麻痺が残ったという圭のお父さんのコメント。シンプルだけど,一生懸命自分一人で言った感動のコメントだ。
「子供と言ってももういい大人の二人がこうして協力してちゃんと暮らしているんです,心配は止めましょう。せっかく知り合いになったんだ,私たちもこれから末永い付き合いをお願いします」
親父にしてはいい挨拶だ。丸3年俺らの関係を認めようとしなかった親父よ, 俺らを祝福してくれ。
嵐のような夜が去り,俺たちはリビングの床にぐったりと横になった。
圭がころんと身体を回転させて,仰向けで大の字になっていた俺の腕に頭を乗せる。
「勇翔の家族,凄いね。たった2時間で俺たちが長年悩んできたことをクリアしていったよ」
「んー,勢いだけだけど,数の勝利ってとこか?」
ふふっと,腕の上の重みが短く震える。
「俺たちがゲイだってことは親父には理解されないにしても,これで俺たち双方の家族には隠し事が無い,って気がする。ああ,ものすごくストレスが軽くなった」
圭が俺の横で嬉しそうに微笑む。
「良かった,圭…」
笑ってる唇にキスをする,軽やかなキス。
「圭,30歳の誕生日おめでとう…」
キスした時のままだった蕩け顔が,高速冷凍でスーッと凍った。
「…俺って,年齢とかあまり気にしない方なんだけど…」
何でもないような声音でいいながら顔を回して俺を見る。別表記:睨む。
「今後,俺にことさら年齢を思い出させなくていいから。歳は自分で覚えているから,勇翔は…忘れていいよ,俺の歳」
あわわ,やばい話題だったのか。
「ん,もう二度と圭が30歳だって言わないから」
圭の目が細く歪められて眉間に皺が寄る。あー,何かダメだった?
「今日は俺が主役だから,後片付けは勇翔がしておいて。もう風呂入って寝る」
え,えーっ? 圭がそんなことを言うのは初めてだ。さっと起き上がって歩き去る圭の後ろ姿に手を伸ばしても,振り向きもせずに圭は浴室に向かった。
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