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食器の洗い物は帰った女性陣があらかたやっていてくんれてた(感謝)。俺はちゃぶ台をたたでしまい,床に軽くモップをかけ,翌日の朝食の材料を確認した。いい夫~。
浴室に行き,ドア口から圭が髪を乾かしているのを見る。ドライヤーを持つ手を上げてこちらにうなじを見せて髪を乾かす様子に,俺は我慢できなくなった。
「圭…」
後ろから圭の身体に手を廻す。温ったかい,圭。
「もう,髪が乾かせないよっ」
あ,ジャマだったね。鏡の中の圭にはまだ笑顔がない。
「勇翔,やって。髪,乾かして」
俺の手にドライヤーとブラシを押しつけてきた。有無を言わせぬ勢いに,ああ,とドライヤーの風を髪に当てた。
触ってみると,圭の髪は随分と乾いている。俺の顔から自然と笑みが溢れる。ブラシで髪をすくいながら乾かしていく。圭は俺に少しだけ寄りかかって気持ちよさそうに目を閉じている。
「綺麗な髪だよね」
圭の口角がほんのわずか上がる。
「それにいい匂いがするし…。髪の毛だけかな,それとも他もいい匂いかな…」
ドライヤーとブラシを洗面台の縁に置いて,俺は圭の両肩に手を置く。頭頂部付近に鼻を寄せて大きく息を吸う。
それから耳,頸筋,肩口へと鼻を移動させる。
「ああ,いい匂いがするな…」
「勇翔…」
顔を上げると,鏡の中の圭が俺の視線を捉えた。
「俺,もう眠くなった…。ほら,30歳になったから疲れやすくなったかも」
一瞬固まった俺の腕からするりと抜け出る。俺に向かってわずかに肩をすくめると洗面所を出て行ってしまった。
家族が帰って二人になったとたん,圭の言動がなんかおかしい。こんなに訳のわからない圭は珍しい…てか,初めて? 誕生日プレゼントのウォームアップスーツが気に入らなかったとか?
素早く風呂を済ませて薄暗い寝室に入る。圭は壁の方を向いて横になっていた。俺が布団に入っても動きがない。横になって圭の腰から腹に手をまわすとちょっと反応があった。起きてるって確信して,ゆっくりと圭の肩に顔を寄せる。
「圭…」
囁くような小さな声だったけど,そのまま続けた。
「俺たち,付き合ってもう3年半になる。出逢ってからは4年半か…驚きだな」
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