4 永久契約

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住民票,アパートの賃貸契約書,通帳に残高証明書,給料明細に身分証明書に…スマホ。あー,身分証明書って免許でいいんだよな? もうはっきり書いてないと悩む!   何か足りなきゃ,教えてもらえばいいから,おしっ,行くぞ!  4月になり,俺は山中製材所に復帰した。ここの先輩・同僚と再び一緒に働いてみて,こんなにもここに戻ってきたかったんだな,って実感した。  斉藤製材所にはとても世話になった。俺も骨身を惜しまず貢献したつもりだ。けど,山中は俺が働き出した場所だ。あまちゃんだった俺を一人前にしてくれた仕事場。一週間みっちり働くうちに,機械操作の勘も取り戻した。  そして初週末。俺は携帯ショップ緑町店に向かった。来店予約というのをれてあるから,余裕の入店だ。 「いらっしゃいませ」  近づいて来た受付係に,ども,ぺこりとお辞儀する。顔を上げると目の端に圭の姿を捉える。  用件を聞きだそうとする彼女に,予約を入れてあることを伝える。タブレットを取り出した彼女が画面を2,3回タップすると,俺の予約を確認したのに,もう一度用件を聞こうとする。 「契約の見直しです。支払いとデータシェアを家族とまとめたいんですが,その,戸籍上別々なもんで…」 「はい…承知いたしました。こちらにどうぞ」  何でも無いことのように俺を案内するこの係の子,絶対バクバクしてる。  内縁の関係にある人たちの携帯契約について,緑町店で試験的に取り扱いを始めたのが3月末。俺は確かそのクライアント1号だ。こんな田舎だけど,一応県庁所在地だ。俺らに続く顧客が現れることを期待してるんだ。  連れて行かれたのは7番カウンター。 6番までのカウンターとは少し距離があり仕切りも高く幅があってかなり他とは遮断されてる感じがする。圭が緊張した面持ちで立ち上がった。 「いらっしゃいませ。予約されていました山中様ですね」 「はぁ,そうです」 「本日担当させていただきます,八柳と申します。どうぞよろしくお願いします」  きっちりと頭を下げる圭。おいおい,仕事とはいえ,なんだか照れちまうよ。圭が頭を上げると,え,はっ…もう,ほんとクラクラする。  圭の頬が,ほんのり桃色に染まっている。笑顔できりりと口元を引き締めているのに,頬が…桃色。
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