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帰宅すると家族はもう食事を終え,俺の分がテーブルの上に残されていた。よくあることだ。一人で適当に食べて,そのままダイニングテーブルで新しいスマホを取り出す。新しくてデザインもかっこよくていじっているだけで気分がいい。
「ゆうとにーさん,みーせーてーっ」
さっきまで居間で騒いでいた甥の大雅(たいが)が,いつの間にか隣の椅子に登りこちらに身を乗り出してきた。
「へっへー,大雅,これ新しいんだぞ。んーそうだな,アニメ観るか?」
大雅は大喜びで「みる,みるっ!」とスマホに覆い被さるように身を乗り出して来る。適当に相手をしてやると,姉の彩華(あやか)が二階から降りてきた。
「ふーっ,やっとすずが寝付いてくれて…,あれ?勇翔,スマホ新しくしたの?」
「そっ,今日ね」
「それド○モじゃん,親と同じ!何,あんた今頃家族割りを狙ってんの?」
聞き付けて台所から母親の和子が出てくる。
「あら,替えたんだ,スマホ。若い人はすぐ替えるわね。それ,ここから一番近い緑町店?」
俺が今日行ったショップだ。やっぱり親と同じ店で買うのって何か複雑だな…。
「あ~,勇翔っ!あんた材木運んだあと,ろくに日報も書かないでそんな所に行ってたの?もう一箇所配達があったのに,すぐにいなくなるんだからっ!もうちょっと真面目にやってくれなきゃ困るのよっ!お父さん,何とか言ってくださいよ…」
やべっ。この流れはマズイ。俺は膝の上の5歳児を乱暴に隣の椅子に移して,さっさとテーブルを離れた。
「勇翔っ!お前,明日は倍働けよ!」
親父の怒鳴り声が聞こえたから,へいへーい,と後ろに返して離れに逃げ込む。離れは座敷の奥に廊下を延ばして母屋とは少し離れた所に建てられている。本当は姉夫婦にと思って作ったらしいんだけど,俺がよく友だちを連れ込んでうるさくするから,大学生のころから俺が使っている。
二間続きの奥の部屋のベッドにどさりと横になる。ポケットからスマホを取り出して、いろいろ検索してみる。明日の天気,話題のゲーム,週末に仲間と食事ができそうな場所…そうだ,あの携帯ショップは…あった!よし,じぁ,その近くで食事ができる場所は…。
「何やってんだ,俺?」
そう口にしてアプリを閉じてスマホを横に投げ出し目を閉じる。
瞼の裏に浮かんで来たのは,ヒョロッとした真面目な男の姿だった。
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