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とある病院の一室。
綺麗に整えられたベットの上で、黒のジャージ姿の青年が横になっており、窓の外を見ながら溜め息を吐いた。
青年の溜め息が聞こえたのか、近くでリンゴを向いていた白衣姿の女性が青年に話しかけた。
「どうしたんだい日影くん? そんな構ってほしいオーラを滲み出させた溜め息なんて吐いてさ」
日影ひかげと呼ばれた青年は、言われたことに対してさほど気にせず、女性に言い返した。
「そんなんで溜め息を吐いてたつもりは無いわ。 ただ、ここでゴロゴロしてんのも暇だなと思ってな」
「だったら本でも何でもいいから持ってくれば良いんじゃないかな? それが面倒なら病院内にある本でも……」
「読んじまったよ、この病院にある児童書から雑誌全部」
「多分、その言い方だと……家にある攻略本とか読みつくしているパターンのようだね」
ご名答、と言いつつ日影はあくびを一つ掻いた。
女性もうーん、と考える素振りをしつつ、自分の考えを口にした。
「ゲームをしてていい……と言うのなら話は別だけど、日影くんのように横になっているっていうのはちょっとね……」
「だろ? 薫さんだっていやだろ、何もしないでぐーたらしてんの」
そうだねと頷きながら、薫と呼ばれた女性はウサギの形に切り分けたリンゴを皿の上に乗せ、命に差し出した。
「あぁ、ありがとう」
日影も礼を言いながら皿を受け取り、綺麗に整列しているリンゴを一つ取って口に放り込んだ。
リンゴが一つ、また一つと皿に上から無くなっていく中、薫はふと、脳裏を過ぎった事を口にした。
「そういえば……日影くん、君は今年の秋に発売する装着型仮想投影機こと『ファリア』を知ってるかい?」
突然の薫の物言いに、シャリシャリと音を立てながらリンゴを食べていた日影は食べている分だけ急いで食べ、口を開いた。
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