撹拌

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 洋服のとき用に、何枚かトランクスもあるにはあるが、なんと物好きにも、御院家の下穿きは、基本的に褌だった。それも、大半は六尺。  そりゃ、法衣か浴衣しか着ないんだから、合理的と言えば合理的なのかもしれない。  だが正直、「自分のモノ以外の下着を洗って干す」というのには、俺もいまだに、なんだか微妙な抵抗感がないわけじゃなくて……トランクスなら、まあ大丈夫だ。こう作業として、淡々と進めやすい。ブリーフとなると、微妙にハードルが上がる気がする。それがさらに褌ともなれば。  ともかく――六尺は少々、干すのも面倒だというのもあるが、そういう取扱いのことだけじゃなくて。なんか、どうにも、アレなわけで。  まあ、そのせいなのかなんなのか。  こうやってだらしない恰好で寝間着の前をはだけていても、なぜか不思議と、御院家には、緩んだような感じがしないのだ……。  とかなんとか、頭の中でゴチャゴチャと考えていると、御院家が「何をぼさっとしとる、俊秀」と、俺の腿を、ぽんと手の甲ではたいた。俺は弾かれるようにして、立ち上がる。 「さて……と」  御院家は寝返りを打ってうつぶせになると、手を伸ばし、枕もとの明かりに手を伸ばした。  カチリと軽い音がして、視界が黒く沈む。  暗がりの中、俺はふたたび、御院家を見下した。  ――御院家は、「そう」だったんですか?  そんな風に訊いてみたい気がしていた。  母さんと結婚する時。『この相手となら、まあ、やって行けるかもな』と、そんな風に思ったんですか?   それとも――  だが、何も口には出せぬまま、俺は、御院家の部屋を出た。
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