私は彼に食べられる

2/36
2750人が本棚に入れています
本棚に追加
/651ページ
大きなもみの木に飾り付けられた色とりどりのイルミネーション。 商店のいたるところに、かわいらしいデコレーション。 街に流れるリズミカルな音楽。 行き交う人々の表情も暖かい。 街はクリスマスムード一色。 人々の中でも、特に恋人たちの笑顔が痛い。 みんな、明日に迫ったクリスマスイヴを待ち望んでいるんだろう。 駅前の賑やかな街並みから逃げるように帰宅した。 冷え切った真っ暗な部屋。 独り暮らしのアパートは心までも凍てつかせてしまいそう。 こんな時、隣にいてほしいあの人のことを嫌でも考えてしまう。 『23日から伊豆の温泉に行くんだぁ』 あのコが友達に嬉しそうにノロケてたっけ。 彼女は悪くない。 悪いのは私。 こんな恋を選んだのは他でもない私。 あのコは立派な被害者。 なのに、ついついあのコを憎らしく思う。 あの笑顔が翳ってしまえばいいのに、なんて不埒な思いが私の中に巣食う。 寒くてエアコンの下で丸まっていると、バッグに入っていたスマホが存在を知らせるように私を呼ぶ。 思わずあの人からかと思い、一瞬期待してしまうけれど。 その思いははかなく散る。 そして、同時に咲く戸惑いの華。
/651ページ

最初のコメントを投稿しよう!