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ケータイでも、時々話した。
だけど、二人ともおしゃべりなほうじゃないもんだから、その無料通話分のほとんどは、沈黙ばかり。
話したいことなら、たくさんあったはずなのに。
たくさん、用意していたはずなのに。
例えば、それらのひとつひとつをいろんな種類の花に変えていったなら、両手じゃかかえきれないくらいの、大輪の花束になる。
瑞々しく、初々しい花びらの命は驚くほど短く、あなたのもとへと届けられる前に、たちまちしおれて、腐って溶けた。
いつも、そうだ。
ドラマや映画の中みたいには、恋人同士という役柄は簡単じゃない。
わたしには難しすぎて、どうしてもうまくできない。
電話を切ったあとは、いつだって泣いた。
もしかしたら、わたしとだから、こんなぎこちない感じになるのかな。
そんなふうに思う夜もあった。
もしあなたが出会ったのが、こんな不器用なわたしなんかじゃなくて、違う相手だったなら。
あなたに、もっと上手に恋人気分を味あわせてあげることができて、あなたはもっと幸せだったかもしれない。
だけど。
そんな不安は、ホームにこうして立つたびに、不思議と消えた。
そして、知る。
わたしはいつも、うまく気持ちを伝えられないもどかしさに打ちひしがれたり、自分のふがいなさを責めることはあっても。
あなたを嫌いになる理由を心の中に探すことは、1度だってなかった。
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