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カラン。
わたしの手から、ふいに小さなアルミ缶がこぼれ落ち、カラカラと黄色い線の内側を転がった。
慌ててしゃがむ。
一瞬早く、隣にいた男の子の幼い手が、それを拾い上げた。
田舎への帰省の途中なのか、背中には青いリュックサック。
並んで立った母親の、優しげな手をほどくことはないまま。
「はい」
綿菓子みたいな白い息とともに、微笑む彼。
「ありがとう」
わたしの口からも、お揃いの綿菓子の吐息。
「何が入ってるの?」
その問いかけに、わたしは膝をまっすぐにしながら、答えた。
「恋のカケラ」
男の子は首をかしげて、
「タカラモノなの?」
「うん」
「どこで売ってるの?」
「どこにも売ってない」
わたし、クスリと笑った。
「世界中で、たったひとつしかないんだ」
「そうなんだ。じゃあ、大切にしてね」
そう、男の子。
わたし、ハッとした。
「うん。そうだね」
それから、吹っ切れた笑顔で、笑った。
「大切にしなきゃね」
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