チョコレート・エクスプレス

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パステルカラーのアルミ缶。 あんまり手に取りすぎたせいで、側面から少しずつ色が落ちてきている。 中には、ガラスを砕いたみたいな、氷砂糖がひとつ。 ここを発つ前に、あなたがくれた。 あなたがいなくなってすぐは、わたし、この音が嫌いだった。 まるで、周りのすべてから遮断された小さなアルミの監獄の中での、置き去りの音。 わたしみたい。 あなたから置いてきぼりをくらった、わたしみたい。 だけど、今は違う。 それは、あなたを想う、わたしの胸の音。 はじめて抱きしめてくれた時の、あなたの胸の音。 二人が、ヘタクソながら一緒に築き上げてきた、不格好な愛のカタチ。 尊いカケラ。 この世には、二つとないモノ。 あなたがいない時、苦しい時、やりきれない時、この音はいつしかわたしを支えてくれるものになっていた。 再び、アナウンス。 連れてきたのは、素肌の頬を切りつけるような、冷たい風。 でももう、身を縮こめるほど、ツラくはないよ。
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