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扉がひらいて、中から重装備の人たちの波が、どっと流れてくる。
こっちは暖かい、と誰かがつぶやいた。
わたしはめいっぱい背伸びをして、見覚えのある黒いダウンジャケットを、その人混みの渦中に探した。
似たような姿に、何度か目を止める。
だけど、待ちわびたキツネっぽい顔立ちじゃない。
そのたびにガッカリする。
最後のひとりが外に出ると、清掃のために扉は閉まった。
ポツリ、と取り残されるわたし。
反射的に、腕時計を確認する。
時間は間違っていないはずなのに。
かと思うと。
またせわしなく扉がひらき、奥から大きなボストンバッグをかかえた黒いダウンの人影。
バタバタと通路を走ってくるのが、所々カーテンの下りていない窓越しに、チラチラと見えた。
「も、戻ってしまうかと思った」
あせりまくった表情。
ホームに降り立ったあなたの最初の言葉がそれで、わたし、たまらず笑い転げてしまった。
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