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この狭いブースの中から、フロアを見下ろすのが好きだ。
ここに立ち、想いを音に乗せて放つ。それがフロアに流れ込んで渦になり、やがて光に飾られて空間じゅうをはじけ飛び、客のハートをゆさぶる。
ウォーミング・アップなんていらない。ただ全身で楽しんで、気持ちヨくなって、そしてオレの名前を呼んでくれたら良いんだ。
「サイ!」
曲の盛り上がりとともに、ブースの傍に集まった女の子達が手を上げて叫ぶ。続けて、フロアで踊る三百近くの客からも歓声が上がり、もっと刺激をよこせとオレを煽る。
応えて更に音を重ね、強烈にうねるエフェクトで脳を揺さぶってやる。すると客達はしびれ、やがて一つの生き物みたいに同調して蠢き始める。
浮かれた熱情モンスター、クラブキメラ。ソイツが生まれる瞬間は、ブースにいるオレだけが知っている。
「サイ!」
オレに向かって、何度もたくさんの手が差し出される。それを見るたび、まるで神にでもなった気分になる。
こうしてブースに入っている間、オレは誰よりもヤバい。
気を抜くなよモンスター、オマエを音で骨抜きにするのなんて簡単なんだぜ――そんな、他人が知ったら絶対引くような思いを持って、オレはいつもプレイしている。
人前で何かをやって見せる時は自分が一番だと思って、胸を張って思いっきりやれと、死んだ婆ちゃんが言っていた。子供の頃は意味が判らなかったけど、今は本当にそのとおりだと思う。
ちょっとでもビビったらダメなんだ、客はDJサイのプレイでイキたいんだから。
「サイ!」
呼ばれる声をきっかけにテンポアップし、ラストへ繋げる。ポップなメロディーの乗ったラウドなロックは、プレイの最後に持って来るとかなり盛り上がる。
最初のサビに差し掛かると歓声が上がり、フロア全体で大合唱になった。
この瞬間がたまらない。
これを得るために、オレは何週間も苦労を重ね、必死になって曲を作る。
やがて、オレが神でいられる時間も終わる。興奮と満足感に満たされる一方で、名残惜しさを感じながら、再び上がった歓声に両手を挙げて応えた。
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