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「お疲れさまっしたー、お先でーす!」
今夜の出番をすべて終え、スタッフへ仕事上がりの挨拶をした。それからサングラスをかけ、裏口からクラブUを出た。
するとすぐ横の電柱のそばに、ギャルっぽい女の子が数人しゃがみこんでいる。オレを見つけて一斉に立ち上がり、声をかけたそうに寄って来たけど、そっぽを向いてさっさと通り過ぎた。
三ヵ月前、インディーズレーベルのオムニバスに参加してから、毎晩のように出待ちされるようになった。
名が売れたと喜ぶべきなんだろうけど、面倒臭いし、写メ撮らせて、なんてウキウキしながら言われたら正直ムカつく。それって、オレの音よりも顔の方に興味があるってことだろうから。
だから、こんな風に近づいてくる女は相手にしない。
中通りを南に歩き、繁華街のメインストリートを目指す。汗が乾き切らない体に、空気の冷たさが沁みて来た。日中は長袖シャツ一枚でも温かいとはいえ、やはり秋だ。
肩をすくめながら腕時計を覗くと、時刻は午前二時を過ぎている。既に待ち合わせに遅れているけど急ぐ気になれなくて、ダラダラ歩いてると、背後から若い女の声が聞こえて来た。
「放してっ!」
切羽つまった感じだけど、深夜の繁華街では、もめ事は別に珍しいことじゃない。
飲み屋のオネーサンと払いの悪い客とか、酔っ払ったリーマンのおっさんが部下の女子にセクハラしてるとか。オレが出てるクラブだって、カップルや女同士の小競り合いやら、酔っ払いのケンカやら、毎晩一つくらいはある。
この間あった秋の恒例イベントだってそうだったし、きっとこれもそういう類いだと思った。
「嫌だ! もう、止めてよ!」
ところが、再び聞こえた声は必死さを増している。
周囲を歩いている奴等が注目していることに気づいて、オレもつい振り返った。すると十メートルくらい離れたところで、金髪をツンツン立てた野郎とスカジャン着た野郎に絡まれている女の子を見つけた。
「結構可愛いじゃん、中学生かな。もしかして、家出?」
「ショートより長い方がスキなんだよな、俺。なあ、髪伸ばさないの?」
見るからにワルそうな野郎達が、ゲラゲラ笑いながら女の子の腕を掴んでいる。そのうち強引に引っぱって、すぐ横にある建設現場の中へ消えていった。
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