崩壊

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空に浮かぶ島の群れ。ひときわ大きい浮遊島に佇む優美な王城、ヴァンシエル。巻層雲にさえ手が届きそうな亭々たる風貌は、他のどんな人工物にも引けを取らない美しさを持っている。 尖頭アーチの塔が立ち並ぶ神秘的な造りは、とても冷たく、それでいて心地の良い雰囲気を作り出していた。 太陽が島々を見上げ出して夜が明けて行く。陽の光で暖められた大気が風を生み出した。薄目で空を駆け上がっていく太陽を眺めていると警笛の音が城の根元から聞こえ、続いて風に乗ってきた声が届いた。 「城下広場へ集合せよ!」 目が覚めずに寝床でもがいていたが、上官の厳しいハスキーボイスが耳を伝い、脳内へ直接起き上がれと命令を下す。 急いで身支度を済ませ、完全には覚醒しない脳は走れば目が覚めると信じ、全力疾走で広場へ向かった。今まで一度も寝過ごす経験はなかったので焦ってしまう。足取りが重く思考が安定しない。 先程の警笛の主を下にこの巨大な城を守るべく、何十人もの衛兵騎士が務めている。そして僕もまた、一騎士としてヴァンシエルを守る責務を果たしていたのに恥ずべし事をしてしまった。 自責の念に駆られながら広場へ着くと、そこにいるのは額に深い谷を刻んだ上官と……数人の騎士だけだった。 「……あれ?」 素っ頓狂な呟きを残し、深呼吸をしながら覚めた意識で今朝を整理する。そしてはっと気付く。 「起床ラッパ鳴ってない……。」 「あら、早いじゃない。」 寝坊の後悔が無駄になり抜け殻のように呆然としている所へ、背後から声を掛けられた。 「相変わらず眠そうな顔をしてるわね、ノルン。」 「なんだ、ミラか。おはよう。」
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