傷む彼女と、痛まない僕。

47/81
前へ
/204ページ
次へ
 お風呂からあがった吉野さんは、母に湿布や薬を塗り直してもらい、お昼を食べ損ねていた僕と並んでダイニングの椅子に座った。  テーブルに、母なりの『栄養たっぷりで消化の良い料理』が並ぶ。  母に『野菜スープよ』と差し出されたそれは、『野菜の煮つけではないんだね?』と突っ込みたくなる程に、汁気は気配を消し、野菜が異様に主張をしているし、『お粥どうぞ』と吉野さんの目の前に置かれたものは、野菜の森に覆われていて、相当掻き分けないと米に辿り着かない域に達していた。  母の『吉野さんに元気になって欲しい』という気持ちがひしひし伝わるから、何も言えず苦笑いしか出来なかった。  そんな僕の隣で吉野さんが『北川くん家の食卓って豪華なんだねー。ポトフかと思ったー。すごーい』と、母が『野菜スープ』と言い張るものを手に取り驚いていた為、吉野さんにも母に向けた笑顔と同じ表情を向けながら『いつもはこんなんじゃない』という念を送った。  でも、『おいしいおいしい』と嬉しそうに食べる吉野さんの横顔に、『まぁ、後々北川家の食卓事情がバレたとしても、ウチの人間が恥をかくだけで誰も傷付かないし、いっか』と念の送信をやめた。
/204ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加