笹崎 新

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「こん、俺いったん職員室いってくるわ。あ、一緒に行く?」 「ウン」 教材を抱えて席を立つ俺と同じように立ち上がるこん。手元には、食べかけのパン。 「教室以外は食べちゃダメなんだぞー」 「残ってるから仕方ない」 開き直ったかのような態度に思わず笑う。まあいいか、夏休みで人も少ないし。 といっても、こんはふだんの学校でも平気でパンを食べてる。それこそ、廊下とか、体育館とか、その他さまざまな移動教室のときも。一部の先生からは「パン谷」なんていうあだ名で呼ばれているし、ほぼマスコット化している。 んー、と言いながら大きく背伸びをしてから、こんは俺の後ろをついてくる。階段に差し掛かると、とことこと早足で並んできた。相変わらず口にはパンをくわえている。……くわえたまま、もごもごと咀嚼している。 「のどにつめないようにな」 「ウン」 首を軽く動かして返事。教室の冷房がもれているせいか、廊下も変わらず涼しい。快適すぎてずっと学校にいたいぐらいだ。なんて言ったら、こんに睨まれそうだけど。 「じゃ、後でな」 「ウン。このへんにいるから」 こんはこれまでもこうして一緒に職員室まできたことはあったけれど、だいたい職員室の中までは来ない。職員室の前にあるベンチや机で、なにかしている。
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