第五章――――答え合わせ

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 夕莉は手を上げて冬吾の説明を中断させた。 「少々、推測に依りすぎじゃないかな? それを裏付ける証拠がないと、推理としては弱いね」 「証拠はハンカチですよ。あれは本来、尾賀に茂地殺害の罪をなすりつけるために犯人が用意したニセの証拠品だったんです。犯人は、茂地と尾賀が口論していたのを知って、尾賀には茂地を殺す動機があると思い込んだ。先に説明したように、口論そのものが二人の自作自演ではあるんですが、犯人はそんなことを知る由もなかった。犯人は食堂に尾賀がハンカチを置き忘れていたことを思い出して、回収。発砲時に一緒に握っておくことで火薬の匂いを染みつけた。それを見つけやすい場所に凶器の銃と並べて置いておくことで、尾賀が犯人であると皆に印象づけようとしたんです。死んでいたのが茂地ではなく尾賀だったり、遺体が茂地の部屋ではなく物置で発見されたりで、事件の前提が犯人の想定していたものとは大きく違っていたので、その工作は結局意味を為しませんでしたけどね。しかし、それが気づいても犯人にはハンカチを回収しにいくタイミングがなかった」  遺体発見後は、途中で茂地が部屋に戻った以外、全員が一緒に行動していた。単独で行動しようとすれば怪しまれる状況、犯人にとっては、解散を待ってからハンカチを回収にいくしかなかったはずである。 「よって――その無意味な偽装工作があったということそのものが、犯人が大きな勘違いをしていたという証拠になります」  夕莉はただ無言で頷いた。あともう一息だ。
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