第五章――――答え合わせ

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「ここまでで、犯人について重大なことが明らかになりました。犯人は物置で実際に尾賀の遺体を見るまで、自分が殺したのは茂地だと勘違いしていたことになります。そのことを匂わせる発言をしていた人が、一人だけいました。その人物は、片倉が死体を見つけたと談話室に駆け込んできた際、こう言っていました。『心臓の発作で倒れているだけではないのか』と。俺も最初にその言葉を聞いたとき、妙だなと思ったんです。病気で倒れているのかも、というだけならばともかく、『心臓の発作』と具体的な症状を挙げるのは少し変だ。尾賀が心臓病を抱えているだなんて説明はありませんでしたからね。まぁそれだけならよかったんですが、後になって、茂地は心臓が悪くて薬を服用しているという情報が出てきた。こうなったら、少し変だな、で済ますわけにはいきません。談話室に駆け込んできたあの時点で、片倉は物置に倒れていた人物の顔をよく見ておらず、被害者が誰なのかはわかっていなかったんです。それにも関わらず、その人物は『心臓の発作』と、明らかに被害者を茂地と結びつけた発言をしています。犯人しか知りえないことを――といっても、それは勘違いだったんですが――うっかり口に出してしまった。たしか、秘密の暴露……というやつでしたっけ?」  夕莉に尋ねると、彼女は笑って答えた。 「その通り……だが、それだけで犯人だと決めつけるのは少々乱暴じゃないかな? その人物が茂地と被害者を結びつけてしまったのは、予め茂地が心臓病であるという話を聞いていたことからの無意識的な偶然とも考えられる」 「うっ」  た、たしかに……。火野以外の全員が、夕食の際に茂地の心臓病については知っていた。夕莉の言うように言い訳されてしまえば、推理だけで犯人を追いつめることはできない。 「私なら、もう一押しほしいところだね」  そこまで言うからには、あともう一つくらい何かあるのだろう、犯人を決定づける根拠が。着眼点は悪くないはずだ。この事件で着目すべき点は、犯人の想定外のところで状況が変化していることだ。犯人にはどこかで認識のズレがあったはず、それがわかるような場面はなかったか……?
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