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「――ま、冗談はともかく」夕莉は改めるように言う。「どうか、今後も冬吾と仲良くしてやってくれると嬉しい」
「…………」
今後も……か。
約束はできない、と思った。冬吾がこの世界から足を洗うことができたとしたら、たぶん、もう二度と会うことはないだろう。そもそも会う理由が無いし、また余計なことに巻き込んでしまわないよう、会わないほうが賢明だ。別離の辛さがないと言えば嘘になるだろうが……じきに慣れる。忘れることも、ないのだろうけど。
「……夕莉さんはどうして、そんなに戌井君のことを気にかけるんですか?」
夕莉への返答を誤魔化すために、別の質問を投げかけた。夕莉はどこか遠くを見つめるようにしながら、話す。
「昔から近所付き合いしている、弟のような存在だから――と言いたいところだけど、それだけではないのかもしれないね。……私は冬吾に、罪悪感を感じている部分があるんだと思う」
これは少し意外な返答だった。
「罪悪感……ですか?」
「……四年前にね。彼の父親が亡くなったんだ。それは彼から聞いている?」
美夜子は「はい」と頷く。
「それから間もなく、彼の妹が病気に倒れてしまった」
「灯里ちゃんですね」
「そう。厄介な病気でね。灯里ちゃんはそれから一年ほど入院生活を送ったんだけど、その間、冬吾もとても大変な思いをしていたんだ」
母はおらず、一家の柱である父を亡くした矢先に、残った一人の肉親である妹まで重病に倒れてしまった。当時の冬吾の心境は推し量ることしかできないが、想像を絶するような辛苦があったに違いない。
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