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「私は、彼になにか声をかけて励ましてやりたがったが、なんと言ってやればいいのかもわからなかった。安易な言葉は、彼を余計に疲弊させてしまうだけのような気がしたから。でもある日、公園に一人佇む彼を見つけて、どうしても放っておけなくて、声をかけた。会話のきっかけとして、近くの屋台で売ってた鯛焼きなんか買ってきてね。今思うと、少しあからさますぎたかな」
夕莉は思い出したように言って、小さく肩をすくめる。
「私は冬吾に言ったんだ。灯里ちゃんのためにも、君は何があっても絶対に折れてはならない……と。それが、残酷なほど厳しい言葉であることは私も理解していた。それでも、彼を立ち直らせるきっかけになればと思って……。あの時、彼に声をかけたあの選択が間違っていたとは思いたくない。でも、私の言葉は今でも冬吾を縛り続けているのかもしれない。彼を見ていると……そう思って、時々不安になることがある。私は彼の生き方そのものに、ある種の呪縛をかけてしまったのではないかと」
夕莉は思い詰めるように目を伏せた。それが、彼女の言う罪悪感なのだろう。
「そのときに、私なら相談に乗るよって、お姉さんぶって言ったんだ。それから彼はよく私を頼ってくれるようになったし、微力ではあるものの、助けてやることもできた。……でも、これから先もずっとこのままでいられるかはわからない。いや……もしかしたらもう、昔とは変わってしまっているのかもしれないね」
そう言って、夕莉は美夜子のほうを見る。
「私の知ってる、戌井冬吾って男の子はさ……。大変な時でも、何でも一人で抱え込もうとするから……心配なんだよ。彼が本当に助けを必要とする、そのとき……私がそばにいてやれるかどうかは、わからないから」
夕莉は深くため息をつくと、疲れたように笑った。
「まったく、これでは……人に向かって妹バカだなんて、言えないな」
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