194人が本棚に入れています
本棚に追加
今度は声をひそめるようにして、美夜子へ言う。
「今の話は、冬吾には内緒にしておいてくれ。くれぐれもね」
「……わかりました、言いませんよ」
「くだらない話を聞かせてしまって、悪かった。私が話したいから話しただけなんだ。忘れてくれても、構わないから」
美夜子は「いいえ」と答える。
「くだらなくなんか、ないですよ。夕莉さんの気持ち、すごく伝わってきました。戌井君のこと、どれだけ大切に思っているのかってことも。その気持ちが、くだらないなんてことは絶対ありません」
「……そうか」
「あたしも、あるんです。昔、何もかも嫌になって、もうどーでもいいー……ってなっちゃったことが。でもそのとき、ある人がくれた言葉のおかげで、あたしは救われた気がしたんです。きっと、それと同じで……あなたみたいな人がいてくれたことは、戌井君にとって救いだったんじゃないでしょうか?」
「……!」
夕莉は少し驚いたような顔で美夜子を見た。美夜子は笑って言う。
「――って、あたしは思いますよ!」
「……ありがとう」夕莉は微笑む。「やっぱり私は、今日あなたに会えて良かったと思う」
「あたしもですっ! ……んふふっ。でもでもー、最初はあたしのこと、ちょっと邪魔だなーとか、思ってませんでした?」
「えっ?」
夕莉は不意を突かれたように声を上ずらせた。
最初のコメントを投稿しよう!