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『今からですか? 再び引き返すなんて面倒ですよ。良かったら僕が届けに行きましょうか?』
『そんな、滅相もない! なければないで構いませんし、それであれば来週まで保管して頂くことはできますか? 原稿を取りに伺った時に受け取ります』
『もちろんそれは構いませんが。……そうだ、佐谷さん』
そこで一度本文が改行されていて、俺は続きに目を移した。
『明後日の日曜、空いていませんか?』
「え…っ」
俺はメールを打つ手をぴたりと止めて、思わず口から声を洩らした。
乗り換えに利用している駅に車両が滑り込んで、ガタガタ揺れながら停車位置に止まる。人の流れに乗ってひとまず電車を降りると、邪魔にならないようにホームの中程に避けて再び画面を見た。
一瞬見間違いかと思ったが、そんなことはなかった。
『日曜なら何もなく、一日空いています』
『良かった。では、ご迷惑でなければ都内のどこかで待ち合わせしませんか? 佐谷さんの家の近くで構いません。付き合って頂きたい所があるんです。ペンケースは、その時に持って行きます』
「なっ?! えっ、ちょっと」
丁度そのタイミングで通り掛かった大学生が、怪訝な顔をしながらこちらを見た。でも、そんなこと今はどうでも良くて俺は我が目を疑った。
嘘だろう…。相楽さんが俺と日曜日に?
ホームの隅で固まりながら、俺は何度も何度も受信されたメールを読み返した。
自分の煩悩が招いた幻ではないだろうか。これは夢か小説で、自分の妄想が描き出したフィクションではないだろうか。
フィクションならついに俺の頭も相当なレベルまでキているし、ノンフィクションならいったいどんなご褒美だ。
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