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「相楽さん」
「……なんでしょうか?」
洗剤を含ませたスポンジで皿の汚れを拭い取る。
「相楽さんって、麺をすすれない人ですか」
「え?」
皿についた洗剤を流す為に水を出したところで、僕の手を彼の声が止めた。
「焼きそばをすすらずに食べていたので、そうなのかなと思って」
「別に、たまたますすってなかっただけですが」
「そうですか。ならいいんですけれど」
なんだろう。なんなんだろう。彼の声が、視線が、僕の背中に刺さるのが分かる。
「そういえば、あなたが食事をしているところってあまり見たことがありませんね。食事をしていないと電話で聞くことは多いですが」
「誰かと一緒に食べるのはあまり好きじゃないので」
「確かに、相楽さんは無口ですからね」
それ以上は、僕に話し掛けないでいて欲しい。
彼が話せば話すほど、肩に力が入っていくのを自覚する。緊張している。僕にとって彼との雑談は試練だ。小説の登場人物のように次に何を言ってくるのか予想出来なくて、どうしても身構えてしまう。
「あ、そういえば知っていますか?」
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