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冷えてきた体を温める為に、僕は両手で自分の肩を何度か擦った。
近くの自販機で温かいコーヒーでも買おうかと思ったけれど、その間に彼が帰ってきたらと考えるとその場から動けずに結局何もできなかった。
そうしてまた、三十分を過ごした頃だった。
「……相楽さん?」
マンションの前の街灯を頼りに端末を触っていた時、漸くその時はやって来た。
暗がりの中、コンビニのレジ袋を提げた人影が僕の名前を呼んで足を止めた。
その表情は聞くまでもなく驚いていた。
「相楽、さん? どうしたんですか。どうしてあなたが、こんな所に」
「佐谷さん」
僕は寄り掛かっていた植え込みから身を離すと、動揺する彼に歩み寄りながらポケットの中に端末をしまった。
長く、長く、彼を待たせてしまった。
臆病な僕は、自分の心に生まれているこの感情を認めることを恐れていて、臆することなく伝えてくれた彼の気持ちになかなか返事を伝えられずにいた。
けれど、今ならそれを伝えることができる。
一人じゃ何もできなくて、公園で出会った彼女から一回分の勇気をもらってきた。
その勇気を持って、僕はここまで来ることができた。
今の僕の想いを全て彼に聞いて欲しい。これが今、僕が精いっぱいできる彼への返事だ。
一回分の勇気を使って、今この気持ちをあなたに伝えます。
「佐谷さん。今日はあなたに話があって、ここまで来ました」
「えっ」
「あの時の、告白の返事です」
握り締めた指先が白くて冷たい。僕は佐谷さんに、自分の気持ちを伝える。
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