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「佐谷さんに『好き』だと言われてから、『好き』とはいったいどういう気持ちなのだろう。僕は佐谷さんに何を返すことができて、何を言うことができるのだろう。佐谷さんは僕にとっては担当で、友人でも同級生でもありません。しかも同じ男性であり……状況がとても複雑で、沢山考えました」
「相楽さん……」
沢山、沢山考えた。
食事をしている時も、家の片付けをしている時も、朝起きてから夜寝るまでの間に何度も佐谷さんの顔が頭に浮かんだ。
「僕は今まで、誰かを好きになったことが一度もありません。『好き』という気持ちがどんなものなのかも正直よく分からなくて……、恋愛感情と呼べるものが自分にも存在しているのか、判断することも……上手く、できません。……でも、考えている内に一つだけ気付いたことがあるんです」
「気付いたこと…?」
「それは」
「自分の返事次第で、佐谷さんを失うことになるのが嫌だと思っていることです」
僕はかけていた眼鏡を外すと、両端のツルを畳んでシャツの胸ポケットにそれを入れた。
ここに来た時から、佐谷さんの前では仮面を外そうと決めていた。
今日はプライベート用の眼鏡も持ってきていないから、正真正銘、これが本当の意味での偽りのない自分だ。
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