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口を閉ざして周りに合わせていたのは、本当の自分を語ることで誰かに背を向けられることを怖がっていたからで、仕事用の眼鏡を『仮面』としたのも、周囲の求める『相楽樹月』になりきる為に僕自身を創作しようとしたからだ。
でも、そんな僕の日常に新しい風を吹き込んでくれたのは佐谷さんだった。
言いたいことはストレートに発言し、喜怒哀楽も包み隠さずぶつけてきて、裏表も何もなく真正面から対してくれたのは、あの時も今も佐谷さん一人だけだ。
殻から出ずに嘴を立てようともしなかった僕の手を、彼は掴んで引き出そうとしてくれた。
これまでの僕ならそれも振り払って首を左右に振っていたけれど、今の僕は彼の手をしっかり掴んで、伸ばしてくれた彼の手を離すことなく掴み続けていたいと強く望んでいる。
この感情が何という名前なのか、僕の頭の辞書に今はまだ記載はない。
「佐谷さん」
けれど、
この感情にタイトルをつけるならば、
「僕もたぶん……佐谷さんのことが、好き……だと思います」
これはきっと『恋』なのだろう。
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