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第一部/担当編集×小説家①<1>
幼い頃から物語を書くのが好きだった。
勇者が出てくるような冒険もの、少女が迷い込んだ異世界のもの、怪しい老人が出てくるようなミステリーものやホラーもの。面白いと思ったものはなんでも書き、興味がある事柄はなんでも調べなんでも読んだ。
物語を綴るのに使っていたのは母が買い与えてくれた大学ノート。表紙に題名を記して動き始めたペンはまるで立ち止まることを知らない子供のように軽やかに紙の上を滑り、最後のページを埋めるのに苦労したことは一度もなかった。
想像したものは一週間もあれば一冊の本として完成した。完成させたものを見せては次の話、また次の話と絶えず浮かんでくるアイデアを一言一句洩らすことなく書き込んでいく。そうして書き溜めたノートはダンボール箱の数を二個三個と増やしていき、庭先に置いた物置の中はいつしかそれらにほぼ占拠されるまでとなっていた。
中学に進んだ頃、自然と小説家の三文字を思い描くようになった。
話を書いて食べていこうとか金を稼ごうとかではなく、ただ自分のやりたいことをやり続けることが出来る職業が小説家だと考えた。幸い反対されることもなく、学校以外のほとんどの時間を原稿用紙とペンに向かう日々を過ごしていく中で、いくつかの作品を出版社へ応募した。
この時に応募した作品が大賞を受賞したのは、夏の暑さが過ぎた高校二年の秋のこと。当時、現役高校生が大手出版社主催の小説大賞に選ばれたことで一時的にマスコミに取り上げられたが、僕の頭の中は次に書く小説のことにしか興味がなく、自分のデビュー作がどのように書店に並んでいたのかも全く知らなかった。
この話は、僕のそんな小説家としての人生のほんの僅かな間に起こった小さな物語。登場人物は主に僕で、あとは僕が住む街で出会った人たちと担当編集である彼。
彼がずっと苦手でたまらなかった僕は、今のこの未来を想像なんてしていなかった。
事実は小説より奇なり。
なんて、作家の僕が言ったら君はまた怒るのだろうか。
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