第四部/担当編集×小説家⑪<6>

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これまで佐谷さんには何度か後ろから挿れられたけれど、立ったままでされるのはまだない。しかも、寝室でもなければリビングでもないキッチンでなんて。背徳感が堪らなく胸を掻き立てる。 「アッ、あッ、そ……こっ、あっ」 「凄い……相楽さん、いつにも増して凄くエッチ」 「な、まえ……っ、名前、呼んで、くださっ」 「それは」 意地悪な佐谷さんも、とても好きだ。 僕が何かお願い事をすると、何だかんだと条件を出して取引してくる。すんなりと言うことを聞いてくれることもあるけれど、特にセックスの時はよく言われる。でも、それらはとても胸を焦がして彼から目を離せなくなる。そして彼も、僕がそうなることに気付いている。 「それは相楽さんが、俺のことも名前で呼んでくれるなら」 そんな意地悪な佐谷さんでも、僕が嫌だと感じることは例えセックスの最中でも絶対にしないことを知っている。 教えられたわけでもなく、そう感じた。僕が彼を見ていて、そう思ったのだ。 後ろを向かされ唇を塞がれ、追い立てるように舌で繰り返し口の中を舐められた。名残惜しそうに離れた口元からは、含み切れなかった唾液が伝った。佐谷さんはそれをすかさず舐め取ると、もう一度唇を合わせて僕の意識を溶かしていく。 「呼んでください、相楽さん」 グッと腰を寄せられ、また更に奥へと佐谷さんが入る。 「相楽さんが呼んでくれたら、俺も相楽さんを名前で呼びます」 僕が佐谷さんを名前で呼ぶ。 それは『佐谷さん』ではなく下の名前で。僕が佐谷さんに求めるのと同じように、佐谷さんも僕に特別を求めて。 「……っ、……ま……まこ、と……」 頭の中が佐谷さんでいっぱいになり、涙で顔が滲んで見えた。 「ま……こと……、真琴、さん……っ」 「はい……。よく、できました」 再び塞がれた唇は極上に甘く、そして極上に優しく。繋がった部分は対称的なくらい強く激しく。僕たちはそのまま互いに求めながら、昨日と同じように何も付けず佐谷さんは僕の中に精液を出した。 足元にも広がる僕の精液にも佐谷さんは一切咎めなかった。それよりも、イッた後は額や頬などへ繰り返しキスを施し、前髪の下りたやや幼い顔でもう一度僕の名前を呼んでくれた。 『相楽さん』ではなく、短い声で『樹月』と。
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