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「俺も最初に聞いた時は『本当か?』って疑ったんですけど、これがなかなか的外れとも言えなくて」
「へぇ……どんな内容ですか?」
「部位はそれぞれ首、肩、腕、脚あとは体なんですけど……あ、ちなみに肩と腕は同じと見做すそうです」
「なるほど」
「その上で相楽さんですけど、相楽さんは首がスタート位置ですよね?」
「は、はい、そうです。確かに、言われてみれば……」
「首から洗う人の性格は」
声を小さく下げられたので、聞き取りやすくする為に自分から距離を詰めて佐谷さんへ近付いた。肘をついたままでいる佐谷さんは僕の動きに合わせるように、若干身を乗り出して耳打ちするように口元へ手を添える。
僕もそれに応じて濡れた髪を耳にかけ、更に傍へと寄った。
佐谷さんの唇がニヤリと不敵に弧を描く。囁かれた内容は、思ってもみないものだった。
「首から先に洗う人は、セックスの時になると途端に大胆になって、何度もせがんで離さないような人らしいです」
「な……ッ!」
ガタッと床とイスの脚をカチ合わせ、僕は堪らず身を仰け反らせて佐谷さんから一気に離れた。
爪先から頭の先へ向かい、一瞬の内に羞恥心が体を駆け上がる。
「なっ、なっ、な……ッ」
「なんて、嘘ですよ。ちょっとからかってみました」
「えっ、……さ、佐谷さん!」
最低だ。信じられない。
この期に及んでこの人は……っ、自分が持ちうる全ての力を総動員させて凄んでも、佐谷さんはニヤニヤと笑っていて僕の怒りなどお構いなし。加えて、慌てる僕を見て『可愛いですね』と付け足してくるものだから、この人の意地の悪さは全くもって底が見えない。
「ははっ、すみません。相楽さんがあんまり色っぽく洗うので、つい意地悪をしたくなって」
「い、色っぽ……っ」
「……で、答え合わせなのですが」
動きに合わせて浴槽から溢れたお湯が床を滑り、排水口へと流れていく。
「本当は、首から先に洗う人は、働き者で何事にも自分のイメージする理想に完璧に近付こうと努力を惜しまないタイプだそうです。……当たっていると思いませんか、相楽さん?」
「えっ」
さあ、こっちに来てください。
壁にかかったシャワーを取りそこから温かいお湯を緩やかに出すと、佐谷さんは僕を手招きして体についた泡を流し始めた。
「俺が的外れでもないなと思ったのは、このことからです」
「佐谷さん……」
「ちなみに俺は髪なんですけど、自分をきちんと律し、セルフコントロールできるタイプだそうで……」
「えっ、全く当たっていませんね」
「んん?」
伸ばした腕にお湯をかけてもらっているところで、僕たちは顔を見合わせて堪え切れずに笑い声を上げた。
ひどいですねと言う佐谷さんに、本当のことですと言い返す。
しかしそれもお互いが冗談だと分かっているから、僕も佐谷さんも特に謝らず話の続きを彼にせがんだ。
髪から先に洗う人と、首から先に洗う人。
もちろん諸説あるのは分かっているけれど、教えてもらったこの答えも僕はあながち的外れではないと納得して聞いていた。
何事にも自分なりの意見や考えがきちんとあり、それに則って行動していく。佐谷さんらしいと、とても思った。そして、そんな佐谷さんらしい一面を僕は信頼し、尊敬して認めているのだと改めて彼に想いを抱いた。
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