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彼が帰った後、僕はそれをテーブルに置いたまま近くの公園へ出掛けた。風に当たりたくなったからだ。
悪い人ではない。けれど、やっぱり彼は苦手だ。
こんな風に思う僕はいけないのだろうか。今まで沢山の物語を書いてきたが、彼のような人物はどんな物語にも登場してこなかった。まだ会って二回目だけど、嫌われているのだろうか。いや、これは仕事なんだ。こんなことを考えるのはきっと良くない。
結局僕はその後もずっとメモを放置したままにしていて、一週間後彼がやって来た時、連絡先を登録していなかったことがバレてひどく怒られてしまった。
仕事の時間は、十八時までと決めていた。
書き始めると文字の世界に入り込み周りが見えなくなってしまう僕は、執筆をはじめる前にアラームをセットすることを日課にしている。
西の空に太陽が沈んでいき部屋の中が暗くなってきた頃、テーブルに置いたスマートフォンから音楽が鳴り響いた。僕は弾かれたようにパソコンのキーボードから指を離し、そちらへと顔を向ける。
計算すると七時間ほどぶっ通しで書いていたようだ。カップの中の紅茶はすっかり冷たくなっていて、側面に茶色い輪っかが出来上がっていた。
「ああ、もうそんな時間か……」
書き進めた原稿を上書き保存し、ブラウザを閉じてパソコンの電源を落とした。
鳴り響くアラームを止める為に立ち上がり、スマートフォンを操作する。部屋に入る風がすっかり冷たくなっていたから、窓を締めてカーテンを引いた。
着信が二件入っていた。昼間に一件、夕方に一件。電話の主は佐谷さんだった。
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