第一部/担当編集×小説家①<2>

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第一部/担当編集×小説家①<2>

出来上がった焼きそばを皿に移すと、麺と野菜からもわもわと白い湯気が昇った。ソースの絡んだ麺が程良い照りをつくっていて、なかなかの出来栄えにほんのちょっと嬉しくなった。 包丁とまな板を使って野菜を切ったのは随分久しぶりだった。冷蔵庫を開けてみると見事に中は空っぽで、さすがにまずいだろうと思った僕は午前中の内に駅前のスーパーへ買い物に出掛けていた。 ひとまず一週間分の食料は買ってきた。あまり手の込んだ料理は出来ないから鍋やフライパン一つで出来上がるものばかりだけど、今日はきちんとお米も買ったから主食に困ることはない。無性に焼きそばが食べたくなって、普段なら買わない中華そばも買ってみた。 そういえば焼きそばは宮部さんの好物だったっけ。忙しくて原稿を取りに来るのが夜になってしまった日は、よく近くの中華料理屋さんに食べに連れて行かれた。ラーメンに餃子にチャーハンにとテーブルいっぱいに運ばれてきた料理を「食え」と豪快にすすめられたのを今もよく覚えている。ーー懐かしい。そんなことを思いながら、僕はイスに腰を下ろしていただきますと両手を合わせる。 少し味付けが濃かったかもしれない。野菜に塩コショウも振ったから、次に作る時は若干ソースの量を少なくしてみよう。 もしくは、この前スーパーで見つけて買った塩ダレを使って塩焼きそばにしてもいい。ソースに比べるとあっさりしているし、胃がもたれている時にも丁度良いかもしれない。もっとも、次がいつ来るかは分からないけれど。
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