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もっとこうすれば良かった、あの時何であんなことを言ってしまったのだろうと反省することも多いけれど、それでもまた気を取り直して前進できるのは、それだけ相楽さんのことが好きだからだ。
「あ、ほら、相楽さん。あそこです、着きましたよ」
信号を挟んだ向かいの通りを指差すと、相楽さんも釣られて顔を上げた。
そういえば、相楽さんの探し物とはいったい何なのだろう。内容を聞いていなかったけれど、それもすっかりタイミングをなくして聞きそびれてしまっている。
とりあえず今はこれと言って確かめずに後を付いて行くことにするか。彼が求めているものが何なのか、それを知るのが楽しみだった。
目的の本屋は、ビル一つがまるまる店舗になっているこの界隈で最も有名な大型書店だった。
一階から五階までフロア毎にジャンル分けされており、エレベーターとエスカレーターの両方が備えられた広い店内では客がそれぞれ自由に本を選び閲覧することが可能で、購入の際には一階に設置されたレジカウンターで一括して会計ができるという利便性の良い仕組みとなっている。
入口のすぐそばにある店内案内には各階の取り扱いジャンルが細かく記載されていた。雑誌、カルチャーから始まり階を上がる毎に文芸、実用書、専門書、文具などと展開された店内図を、相楽さんは一階から順に指で追って目的のものを探していた。
「そういえば、今日は何を探しに来たんですか?」
二階の案内図に目をやっている最中、先程から気になっていた疑問をようやく投げてみた。
「小説です。気になっているミステリー小説がありまして」
「なんだ、それなら三階ですよ。場所も分かるので案内します」
すぐ傍には上階へ続くエスカレーターがあり、相楽さんをそちらへ促した。一階から二階、二階から三階へ移動しながら後ろを振り返ると、相楽さんは物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回していた。
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